『子どもの語彙力を伸ばすのは、親の務めです。』(著:齋藤孝 角川書店)
本書の著者は、明治大学教授で、メディアでも引く手あまたの齋藤孝先生です。私も『声に出して読みたい日本語』や『人はチームで磨かれる』などの著書を拝読したことがあります。
今回は、私が注目している国語教育の中でも、特に大切だと言われる“語彙力”についての著書です。はじめに、斎藤先生は“語彙力こそが学ぶ力の基礎にある。”“語彙力こそが生きる力になる。”とし、“語彙力を伸ばす大きな機会は家庭にある。だから、語彙力を伸ばすのは親の務めである。”と言い切っています。
子育ての中に、この語彙力を伸ばすことをどのように取り入れられるのか?まとめていきたいと思います。
● 語彙力は学力に直結する
まず私が驚いたのは、学力についての記述です。語彙力は学力に直結する、とした上で、学力を「記憶再生型」と「問題解決型」に分類しています。
ここまでは私も理解しています。そして、現在の教育現場では、これまでの「記憶再生型」重視の入試や授業を改善しようと、「問題解決型」重視の入試や授業に重点を置くというのが通説です。
しかし、斎藤先生は「記憶再生型」の大切さを説いています。“語彙力”は「記憶再生型」の学力に直結します。いくら「問題解決型」の学力が重視されても、考えたり意見をもったりするには、先にたくさんの言葉をインプットすることが必要不可欠だからだと述べています。
確かに“インプットなくしてアウトプットなし”には納得できます。豊富なインプットの上に、「問題解決型」のようなアウトプットを鍛えていくことの方がイメージがもてます。その繰り返しが学力を向上させていくということなのでしょう。
● 語彙力を伸ばす4つの理由
斎藤先生は、語彙力を伸ばすメリットについて、4つ挙げてまとめています。
➀『学力が上がる』・・・
「記憶再生型」の学力を直接的に伸ばし、さらに「問題解決型」の学力を支える。
②『社会に出て困らない』・・・
「自分の気持ちを言葉にして伝えられるか」「相手の言葉を理解できるか」など、コミュニケーション能力の基礎になる。
③『生涯年収が上がる』・・・
どういう組織に採用されるかが試される面接で、瞬時に相手の言葉の意図をくみ取り、頭の中で整理して言葉にできることは強み。
④『情緒が育つ』・・・
「やばい」「まじで」などの言葉で表現していると、思考が単純化していく。できるだけ多くの言葉を耳にして、より繊細な表現を知って言葉を覚えていくと、心を成長させていく。
● 家庭での語彙力の伸ばし方
では、家庭で語彙力を伸ばすにはどのような方法があるのでしょうか?本書ではたくさん挙げられていますが、特にというものを選定してまとめていきます。
➀『電子辞書をリビングに置く』・・・
知らない言葉や気になった言葉などを、すぐに調べられるようにする。子どもだけでなく、親も一緒に調べることで習慣化される。
②『「NGワード」で言葉を磨く』・・・
いつもつい使ってしまう口癖を見付け、それを使わずに別の表現で話させるようにする。
③『マンガで学ぶ』・・・
マンガは非常に大切な情報源。生き方や社会のことを知る入門書となる。また、歴史モノは流れをつかめるので、特に効果的。
④『アウトプットトレーニング』・・・
言葉で説明できないものは本当にわかっているとは言えない。親は子どもに質問したり、説明を求めたりし、アウトプットさせることを意識する。
⑤『「新聞ノート」をつくる』・・・
新聞は最良のテキストである。事実・背景・影響が整理されて書かれているので、それを確認することで言葉を鍛えることが出来る。また、記事を切り抜いてノートに貼り、その横に記事の要約と自分のコメントを書かせる。
⑥『3色ボールペン読書』・・・
「すごく重要(赤色)」「まあ重要(青色)」「面白い(緑色)」と色を付けながら読むと、より内容が頭に入ってくる。また、キーワードに注目することが出来てくるので、要約する力も付いてくる。
一般的な家庭でも出来そうなことが、いくつかあったかと思います。親の意識次第で、今すぐにでも出来ることが多かったように思います。
●名作は読むべし!
最後に、『理想の国語教科書』という内容に触れて終わりたいと思います。斎藤先生は、国語の教科書は、もっと難しくてもいいはずと主張しています。それらの名作の暗唱や朗読、音読、素読を推奨しています。
多少難しい内容の本でも、すべての意味が分からなくても、名作は早いうちから読ませるべきで、その文章に触れるだけで、その文章の力強さや魅力は十分に子どもに伝わるからだそうです。芥川龍之介や太宰治から、ドストエフスキーやシェイクスピアに至るまで、子どもにはしっかりと伝わるものがあると、実体験から話されています。
親でさえ読んでいない名作もあるでしょう。かく言う私もそうです。この際、子どもと一緒に名作を読み合ったり音読したりするのもいいかもしれないと思いました。