学級の子どもの数は、大体35人前後が私の場合は多いです。授業では、この全員の学力向上を保証しなければなりません。授業を考える場合、単元の目標、身に付けさせたい資質・能力、子どもの実態、全体の指導過程、時間ごとのめあて、個別な支援など、様々なことを考えながら単元計画を行います。これらの中で、今回は「学習における個と学び合い」について考えていきたいと思います。
 
 学習とは、個々の知識や技術、資質や能力などを新しく獲得したり修正したりする行為です。あくまでも、すべての学びは個に返るものでなければなりません。究極を言えば、全員が一人学びができ、しっかり獲得や修正ができれば、何も問題はないのかもしれません。でもそれが、個々の能力的な問題や時数的な問題などから考えて難しいので、多くの学校では一斉全体指導が主流となっているのでしょう。しかし、この一斉全体指導中心では、主体的な学習者を育てることが難しいことはこれまでにも訴えてきました。そこで「個→集団→個」というように、間に学び合いを入れることは珍しくありませんが、効果的な学び合いがなされているかどうかは疑問が残ります。

学習における個
 
 理想的なの個別化を図ることはできないのでしょうか?東京都板橋区立板橋第一小学校では、「イッチー学習」という個別化に特化した学習プログラムを授業に導入しています。私は実際に「イッチー学習」を見学さていただく機会がありました。「イッチー学習」では、教師が子ども達に対して、いわゆる授業をすることはありません。教師は事前に学習環境を十分に整え(この環境づくりが徹底的)、子どもが一人で学習を進められるように様々な工夫をします。授業中の教師の役割は、丸付けや子どもが相談に来た時に対応をします。子ども達は、与えられたものをフル活用し、自分で好きな材料を選択して、自分のペースで学習を進めていきます。学習中はすべて子どもに委ねられていますので、相談し合う子達もいました。しかし、基本的には黙々と自分の学習を進めていました。
 ここでみなさんの声が聞こえてきそうです。“能力や意欲の低い子は何しているの?一人学習なんてできないでしょう?”という疑問の声です。実は私もそれが気になっていました。もちろん、そのような子はいました。そのような子を観察していると、始めはしゃべっていたり何もしなかったりして時間を過ごしていたのですが、次第に周りの様子を気にし始め、最後には学習に取り掛かりました。これはヒドゥンカリキュラムの効果だなと思いました。誰かに注意されたのではなく、自分の判断で学習し始めたのは大きな意味のあることだなと思いました。この学校では、すべての単元でこの「イッチー学習」を導入している訳ではなく、年間指導計画にどの教科のどの単元で行うかを校内研究の一環で考えて、適材適所となるように導入しているとのことでした。
 この学習プログラムの主なねらいは、「主体的な学習者を育てること」「自分の責任で学習させること」「個の学びを大切にすること」であると思います。もちろん、与えられた時間でめあてに到達できない子もいると思います。しかし、ねらっていることの優先順位が、知識や技術の獲得よりも、学習者としての資質・能力の向上の方が高いのです。これはこれで、学校として共通理解して行われているなら、個別化としてアリだなと思いました。

学習における学び合い

 理想的な学び合いとはどのようなものでしょうか?富山県富山市立堀川小学校では、「自主と協働」を中心的な目標としています。私が興味をもった主な活動に「くらしのたしかめ」と「聞き合い」という時間がありました。そこでは、「傾聴」を重視し、創造的に聞くということをねらっています。つまり、良い聞き手を育てることに重点を置いています。私はこの堀川小学校も訪問する機会があり、実際に様々な活動を見学することができました。
 「くらしのたしかめ」は、一般的に言えば、朝の会・帰りの会のような位置づけですが、それらとは全く違います。話したい子が自由に話し始め、周りの子は話し始めた子の話を基本的に傾聴します。しかし、まるで休み時間に友達と話しているかのように、自然と他の子もその話に加わって話すこともあります。話したい子が話す時間であり、それを真剣に受け止め、創造的に傾聴する時間なのです。だから、やらされている感は全くなく、安心して話すし、楽しそうにしっかり聞いていました。
 「聞き合い」は、授業中に意図的に行われる意見交換の時間です。ここでの教師の役割は、意図的指名のみです。教師は事前に、どの子がどのような状況で、どのような気持ちでいるかをビデオ(よく授業の様子をビデオ撮影するそうです)やノートから調査しておきます。そして、学び合いがなされるように意図的に指名するのです。すると、もともと疑問をもっていた子、自分の考えに自信がなかった子、友達の意見が知りたかった子などが発言します。この子達に共通しているのは、聞きたかった状況にあったということです。ですから、面白いように活発で主体的な意見交換の場となっていました。
 この学校は、すべて個を伸ばすために協働を大切にしていました。それを入学してからずっと続けているので、高学年の個々の資質・能力の高さには驚かされました。学びに主体的で、他者も尊重することができる。だから、みんな安心して学校生活を送っているように感じました。

真の個別化と協働化

 これら2校の実践から分かることをまとめようと思います。
・まずは、学び手として成長するのは、主体的な取り組みによってであるということです。やらされている状況からは成長を感じることはありません。
・次に、個々での学びを広げたり深めたりするための学び合いでは、教師のタイミングではなく子どもが他者と交流したいと思っているタイミングで行うべきであるということです。そのためには、よく子どもを見て状況を理解することが大切です。
・最後に、教師一人で取り組むのではなく、みんなで共通理解して学校を挙げて取り組むことで効果を上げるということです。意図的な実践を、時にフィードバックをしながら長い時間積み重ねていくことで、子ども達にしっかりと身に付けていくことができるのだと思います。

 先にも述べましたが、学習の基本は個です。個が自分の学びに責任をもち、主体的に学ぶことが最も大切です。しかし、一人の考えのみでは広がり深まりは存在しません。ですから学び合うのですが、教師に学び合わされるのではなく、個自身が学び合いたいから学び合う状況が大切です。これらが満たされていれば、どのような学習プログラムでも基本的にうまくいくのではないでしょうか。私自身もこれらを忘れず、色々な学習プログラムを学び、試してみたいです。そして学校全体に提案してみたいと思います。

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