11月3日、私も注目していました、ラグビーワールドカップ決勝が行われました。イングランドvs南アフリカの結果は、12-32で南アフリカが勝利し、3大会ぶり3度目の優勝を果たしました。当初はイングランド有利と言われていましたが、私は日本を破った南アフリカを応援していました。「南アフリカおめでとう!日本もメダル狙えたってことだね!めでたしめでたし!」と言いたいところでしたが、ちょっとした事件が起こりました。イングランドの選手たちが、銀メダルを授与された直後に首から外すという行為をしたのです。
●プロフェッショナルとは何か
この行為に海外メディアは、“不愉快な敗者”“紳士的でない態度”などとイングランドの選手たちを非難しました。確かに、戦前から優勝候補と言われていたり序盤に退場者を出したりして、不本意な結果だったかもしれません。またこの行為を、“どれだけ彼らが落ち込んでいるかを物語っている。彼らはもっと上を目指していた。”と擁護する声もあるようです。
しかし、プロスポーツ選手が世の中に与える影響(特に子ども達)を考えると、“不本意だった”という理由だけでこの態度はとってほしくなかったと私は思います。プロスポーツ選手は一般的に憧れの人です。単に「運動ができる」とか「強い」とか「速い」とか「巧い」とかが優れているだけではいけないのだと思います。“人として”も優れていてほしいのです。それが、『みんなが憧れるプロフェッショナル』だと思います。もう一つ実例を挙げてみます。
基本的に日本代表選手のロッカールームは美しいと言われています。それは“来た時よりも美しく”という日本人の礼儀・作法の文化があるからだと思います。試合の勝ち負けに関わらず、ロッカールームを綺麗に整えてから退室しているそうです。同じ日本人として、とても誇れる態度です。
一方、サッカーの強豪チームとして有名なFCバルセロナのロッカールームが汚いと報じられたことがあります。サッカーの日本代表チームとFCバルセロナが試合をしたら、おそらくFCバルセロナが勝つでしょう。FCバルセロナの選手たちは当然すごい選手ばかりですから。でも、この“すごい”のは、スキルやフィジカル、戦術、チームワークなどでしょう。では、“人として”はどうでしょう?サッカーをしていない“人として”の時間も当然あります。その時にその人を“すごい”と心から思えるでしょうか?
●人としても尊敬できるプロスポーツ選手
今度は、最近私が“人として”すごいと感動したプロスポーツ選手を挙げてみます。
NBAのスーパースター、ゴールデンステート・ウォリアーズに所属するステフィン・カリー選手が、日本の学校を訪問しバスケを指導するというニュースを拝見したことがあります。カリー選手が見守る中、何人かの子ども達がシュートを放っていきます。しかし、ある女の子が何度もシュートを外してしまい、自信を無くしたのかその場を去ろうとしました。しかし、カリー選手はすぐに呼び止めます。そして“すべてのシュートが入るわけではない。私でもそうだ。大事なのは入るまで打ち続けることだ。”と助言し、再度シュートするよう促しました。緊張していた女の子もその言葉を真剣に聞いていて、再びシュートする決心をします。その時の表情はすでにリラックスしているように見えました。そして、見事にシュートは決まるのでした。女の子の気持ちに寄り添い、未来を考えているからこその発言だったと思います。カリー選手の“人として”のすごさが伝わってきました。
レアル・サラゴサに移籍した、サッカー日本代表の香川真司選手は、当初は大いに活躍し存在感を示していました。しかし、直近ではチームは低迷し、香川選手もサポーターからブーイングを受けたり“意味のない存在だった”などとメディアから酷評されたりしてしまいます。そんな時に、地元紙からインタビューを受けます。「試合が進むごとに君から光が消えてしまっているのはなぜ?」と厳しい質問です。その質問に香川選手は、“・・・今は苦しんでいる。・・・物事が上手くいかない時はすべてがネガティブに見えてしまうけど、きちんと練習をしている自分たちを信じている。”と答えました。さらっと答えていますが、実に重みのある言葉だと思いました。超一流の彼でさえ苦しむ。それでもきちんと練習を続けている。そして、そんな自分を信じ続けるのだと。香川選手もまた、すごいメンタリティと誠実さをもつ、“人として”のすごさが伝わってくる選手だと思いました。
●数多く現れてほしい、本当の意味で憧れるプロスポーツ選手
最初に紹介した2つの例は、「文化の違い」「見方・考え方の違い」と言われればそれまででしょう。しかし、本当に好きな選手、憧れの選手は、こうあってほしいと思う部分が“人として”という部分であると思います。プロスポーツ選手が何か犯罪を犯してしまうニュースも度々あります。これは“人として”できていない証拠です。ゆえに、プロスポーツ選手のスキルやフィジカル、戦術、チームワークなどがすごいだけでは、プロフェッショナルではないのです。
勝てばいいのではなく、巧ければいいのではなく、強ければいいのではなく、『勝てて、巧くて、強くて、人としてもすごい(人としてのすごさは様々にあります)』のが、本当のプロフェッショナルだと思います。そして、すべてのプロスポーツ選手がそうであってほしいと思います。多くの人達、特に子ども達が本当の意味で憧れることができるプロスポーツ選手が、数多く現れてくれると素晴らしいなと思います。今後も様々なスポーツに、選手に、注目していきたいです。