『「学校」をつくり直す』(著:苫野一徳 河出新書)

「学校」をつくり直す

  『「学校」をつくり直す』というタイトルに、教育関係者必読の予感がしました。著者の苫野一徳先生は、熊本大学教育学部准教授で、哲学・教育学が専門です。千代田区立麹町中学校長、工藤勇一先生の著書『学校の「当たり前」をやめた。』でも、大いに学ぶことがあり影響を受けました。本書も、これから必要となる教育の在り方について書かれており、いち教育者として念頭に置いておきたい価値観や教育観、知識などを知ることができました。

学校の問題の本質は何なのか?

  まず現在の公教育の問題について書かれています。まとめます。

➀「みんなで同じことを、同じペースで、同じようなやり方で」をやめる・・・
このシステムでは、“落ちこぼれ”“吹きこぼれ”を生む。個性が育たない。自ら考えなくなる。

②学校や地教委で実施されている「〇〇スタンダード」をやめる・・・
教師も子どもも枠にはめてしまうため、思考力や個性を奪う。パターン化させるUD(ユニバーサルデザイン)では、「みんなで同じことを、同じように」を強化する。

③学力テストをやめる・・・
そもそも何のために行っているのか。単純なドリル徹底を促し、平均点主義に陥ってしまう。学力テストの結果からは、一人一人の支援に役立っていない。

  苫野先生が一番危惧していることは、公教育が始まって以来150年、ずっとシステムが変わっていないこと。すなわち「みんなで同じことを、同じペースで、同質性の高い学級の中で、教科ごとの出来合いの答えを、子ども達に一斉に勉強させる」システムです。これによって様々な教育問題が引き起こされているという事実です。

 確かに、戦後GHQによって軍国主義が解体され、経済成長のためにシステム化された教育制度は、ほぼそのままの形で残っています。このシステムはこの時代だったから功を奏しただけのことです。当時は、必要なことを大量に覚えマスターした人が社会でも求められました。それが高度経済成長を生んだのです。しかし、バブルが崩壊し、よりたくさん知識を得たり、計算が素早くできたり、言われたことを言われたようにできたりするだけでは、社会で通用しなくなりました。その構図は、現在の社会ではより顕著です。にもかかわらず、苫野先生のおっしゃる通り、当時のシステムからは一向に変化していないのです。

公教育をどう変えていくのか?

  そこで、公教育をこう変えていくべきだと書かれています。まとめます。

➀教育の目的を「自由の相互承認」を育むためとする・・・
すべての子どもに「自由の相互承認」の感度を育むことを土台に、すべての子どもが「自由に」生きられるための“力”を育むために教育はある。これを学校の目的とすべき。

②学びの「個別化・協同化・プロジェクト化」を図る・・・
・必要に応じて人の力を借りながら、人に力を貸しながら「ゆるやかな協同性」に支えられた「個の学び」を進めるべき。学ぶ教科やタイミング、ペースは個々で決めればいい。テストも一斉でなくていい。教師はこのような学びの環境をデザインすること。
・デューイの言葉に“どんな子にも必ず知りたい欲求、学びたい欲求、探究への欲求がある。しかしそれが、学校に入ったら殺されてしまうのだ。”というものがある。子どもの学びを探究的(テーマ→問い→方法→発表→フィードバック)にする。そうすると、学びが自らの学びとなり、結果として教科の点数も取れてくる。

 探究についての説明の中で、大変納得させられる言葉がありました。
『(普段の子ども達の)あの「遊び」が高度の「探究」でなくて一体なんでしょう。あの「探究」が最高の「遊び」でなくて何なのでしょう。遊び浸ることは学び浸ることであり、探究そのものである。』
 確かに、学びの場面においての理想は、“どうしようもない位に楽しくってやり続けていたら、いつの間にか身に付いていました。”であると思います。これはどの教科でも例外なくそう言えます。

我々に今すぐできることは?

 いまだに旧態依然の一斉指導中心の学校で、どこまでこれらのような考え方を取り入れられるのか、しっかり思考せねばならないと思いました。しかし、一斉指導が必要な場面ももちろんあるし、学校の実態によってはすべてが当てはまる訳ではないことも理解できます。
 まずは、学校のすべての先生方と一緒に、教育の在り方、目指す理想の児童像、今後必要となる力などについて、じっくりと話し合っていくことから始めるべきだなと思いました。そして、知ること、理解することから始め、小さく始めること、徐々に広めること、このような手順が必要だと思いました。

 全国様々なところで教育改革がなされています。それらに対して敏感にアンテナを張り、まずは知ること。そして、目の前の子ども達を見て、自分で何が必要かをしっかりと感じ取っていきたいと思いました。

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